配偶者が亡くなると、銀行はその預金口座を凍結します。凍結中は相続人であっても自由にお金を引き出せず、解除には戸籍謄本一式や遺産分割協議書など、数週間から数か月かかる手続きが必要です。この「死後すぐにお金が使えなくなる」リスクに備える金融商品として、信託銀行などが扱う遺言代用信託の利用が広がっています。実は、不動産にも預金と同じように「遺産分割が終わるまで動かせない期間」があります。遺言代用信託の仕組みとあわせて、相続不動産についての備え方を整理します。
1. 遺言代用信託の仕組み
遺言代用信託は、契約者が生きているうちに「いくら預けるか」「誰に渡すか」「どのように渡すか」をあらかじめ銀行と契約しておく金融商品です。契約者が亡くなると、銀行はあらかじめ指定された受取人に対して契約内容に沿って資金を払い出します。信託された金銭は遺産分割の対象となる「相続財産」とは法的に切り離されて管理されるため、通常の預金口座のように死亡と同時に凍結されることがなく、相続手続きの完了を待たずに受取人がすぐに資金を使えます。信託協会の統計によれば、遺言代用信託の新規受託件数の累計は2024年度上半期時点で約25万件にのぼり、集計を始めた2009年度以降、着実に増加しています。
まとまった金額を一括で受け取る「一時金方式」と、一定額を定期的に受け取る「定時定額方式」があり、葬儀代は一時金、その後の生活費は定額で、というように組み合わせることもできます。
2. 不動産は遺言代用信託の対象外——「動かせない期間」は変わらない
ここで注意したいのは、遺言代用信託が対象とするのは基本的に金銭のみという点です。実家や相続した空き家などの不動産は信託の対象に含まれません。つまり、遺言代用信託によって当面の生活費・葬儀費用は確保できても、不動産については従来どおり、遺産分割協議がまとまり相続登記が完了するまで売却も処分もできない状態が続きます。相続人が複数いる場合、この協議が長期化し、結果として空き家が何年も放置されてしまうケースは珍しくありません。
| 預金(遺言代用信託あり) | 不動産(相続) | |
|---|---|---|
| 死亡直後 | 信託契約に沿って受取人へすぐ払出し | 相続人全員の共有状態、単独では売却不可 |
| 動かせるまでの期間 | ほぼ即時 | 遺産分割協議+相続登記完了まで(数ヵ月〜数年) |
| 備える方法 | 遺言代用信託、生命保険など | 遺言書、家族信託、生前売却など |
3. 不動産の「動かせない期間」への備え方
不動産について預金と同じような備えをしたい場合、主に3つの選択肢があります。1つ目は遺言書の作成です。遺言書があれば遺産分割協議を経ずに特定の相続人へ不動産を承継させることができ、手続きが大幅に短縮されます。2つ目は家族信託で、不動産も含めた財産管理を生前のうちに柔軟に設計できますが、専門家の関与が必要で数十万円規模の初期費用がかかることが一般的です。3つ目は、将来的に使う予定のない実家や空き家であれば、所有者が元気なうちに売却して現金化しておくという方法です。現金化しておけば、遺言代用信託や生命保険と組み合わせて相続人間でスムーズに分けやすくなります。
不動産は現金と違って簡単に分割できないため、相続人が複数いる場合にトラブルの原因になりやすい財産です。遺言代用信託で金銭面の備えをするのと同じように、不動産についても生前のうちに整理の方向性を考えておくことが、家族の負担を減らすことにつながります。
まとめ
遺言代用信託は、死後に預金口座が凍結されて家族が資金を引き出せなくなる問題への有効な備えですが、対象はあくまで金銭に限られます。不動産については、遺言書の作成や家族信託、あるいは生前売却といった別の備えが必要です。相続した実家や今後相続が見込まれる不動産について、「動かせない期間」をどう短くするか、早めに検討しておくことをおすすめします。
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よくある質問
遺言代用信託があれば、相続不動産もすぐに売却できますか?
いいえ。遺言代用信託は金銭のみを対象とする金融商品で、不動産は対象に含まれません。実家や相続した空き家などの不動産については、別途、遺産分割協議や相続登記を済ませなければ売却できない点は変わりません。不動産についての備えには、家族信託や生前の売却・整理、遺言書の作成といった別の対策が必要です。
相続した実家をできるだけ早く動かせるようにするにはどうすればよいですか?
最も確実なのは、所有者が元気なうちに遺言書を作成しておくことです。遺言書があれば遺産分割協議を経ずに特定の相続人に不動産を承継させることができます。また、将来的に空き家になることが見込まれる実家については、生前のうちに売却して現金化しておくことも、相続人の負担を減らす有効な方法の一つです。
出典:一般社団法人信託協会「信託の受託概況」(2024年12月25日発表、2024年度上半期時点)。本記事は情報提供を目的とした一般的な内容であり、法律・税務上の助言ではありません。実際の対策については弁護士・税理士・信託銀行等の専門家にご相談ください。